オーディオ顛末記(8)──決定
B&Wで充分か、それともFB1か。
A店で聴いたB&W
のどれだかは、なんてことのない興味を引かない音だった。でも「FB1を僕で
は鳴らせてない」のと同様、B&Wも充分鳴ってなかったんだろう。きっとあれもセッティング次第でもっと違う音が出るに違いない。
………………………けど。
「B&Wだと低域が綺麗すぎると思う」
決めた。FB1だ。
アンプはもうしばらく907Fを使い続け、スピーカとのマッチングを見ながら次を選ぼう。これにはアンプはアンプでじっくり考えようというのもあるし、
907Fが前の持ち主の手を離れて以降、相応に使ってやれてないのが不憫だという気持ちもある。もう一度、能力を発揮させてやりたいではないか。
私は「どーしよー
ウロウロ」と悩みまくるタイプではないけれど、しばらく忙しくてオーディオは棚上げして
いたので、こう結論を出したのは秋も後半。
棚上げしてる間に『
Quiet Lovers』のプロデュー
サ・貝塚氏と録音エンジニ
ア・楠田氏に会う機会があった。
楠田氏の普段の仕事はコンサートなどのPAがほとんどで、「ユーミンなんかのコンサートだと高い櫓を何本も組むんでPAより鳶(トビ)のほうが人数が多
い」
なんて話も聞かせてもらった。
その楠田氏、「『Quiet
Lovers』の録音は貝塚氏の要請に従ってベースの音をリアルに録ることに努めたまでで、なにか凄いことをしようとしたわけじゃない、それがあち
こちで「『ベースの録音が凄い』と言われて戸惑ってる」だそう。当然そのせいでオーディオを買いに走る人間が出るなんて思ってもみなかったようで、
「お蔭でマトモなオーディオ買う羽目になりそうです(苦笑)」と言うと「えー(^^;)」と返ってきた。
「とりあえずヘッドフォン買ってしのいでます」「どこの買われたんです?」「STAX」こ、これ、固まらんでもっ!
STAXつっても一番安いヤツだって! さっき落っことしかけたSHUREのマイクのほうがよっぽど高いでしょ!(でもマイクは某県の備品か^^;)
こう書いてくると誤解されそうだが、『Quiet
Lovers』はオーディオマニア向けの作品ではないし、貝塚氏にも「オーディオファンだけが分かればいい」なんて奢った考えはまったくな
い。ベースを忠実に記録しようとしたら再生環境を選ぶ録音になってしまったというのが真相である。
ピアノの大石学に若いファン(ラジカセやミニコンポで聴く人がほとんどだろう)が多いことを考えて悩んだそうだが、「それでも敢えてあの音を記録したかっ
た」と言う貝塚氏の気持ちはとてもよく分かる。あのベースを生で、広いホールやクラブでなく小さなハコで聴いたことのある人間なら分かるはずだ。
気候やハコによって随分事情が違うのがアレだけど。2004年夏のS市でのライヴなんて空前絶後の悲惨さだったしなー
CDやレコードは同時代のリスナーが楽しむためだけでなく、演奏の記録という側面を持っている。亡きビッグネーム達の演奏に感動できるのも
録音が残されているからこそ。今の多くのリスナーが置かれている環境、はっきり言えばこの20年ほどの風潮である機能重視・音質軽視の機器に合わせるため
に本当の音が記録されないでは、ある意味片手落ちだろう。
録音されていればそれを再生する努力は後からでもできるのだから。聴きたいと思う強さに応じて。
で、たまにσ(・_・)こういうバカもいる